「寂しくて死にそう」
「はあ?」
思わず声高になりすぐ左隣に座っている相手を振り返ると、打って変わって微動だにせずじっと、そのままテレビの画面を見つめている。隼人はますます訝しげにその横顔を見つめた。
「あんまり見るなよ…」
「お前が変なこと言うからだろ」
「変なこと?」
「もういい…」
隼人はテレビに視線を戻した。隣の相手はじっと、後も初めも変わらぬ状態でじっとテレビ画面を見つめたまま手を動かしている。電子音とかたかたとボタンを押すのやスティックが回る音がする。
「あのさ、隼人」
「なんだよ」
「観てて楽しいか?」
「それなりにな」
「パス」
「げ、俺ここ嫌いなんだよ」
「俺も嫌いだからさ」
「やなやつだなお前」
それでもコントローラーを受け取るとじっと画面を見入る。相手は後ろ手をつき重心をやや後ろにかけながら明るい画面を見つめる。いくつか瞬きをするとくあ、と欠伸をした。潤んだ目で画面の動きを追う。溜まった涙がぽろりと頬へ伝った。
「涙出てんぞお前」
「目が疲れた」
「まばたきしろよまだたきを」
服の袖で頬を拭い、また意識していくつか瞬きをすると今度は隼人の肩に凭れる。最初は頭だけだったのが少しずつ全体重をかけていく。思わず隼人はバランスを崩した。
「…お前なあ、」
「寂しくて死にそう」
「…それって眠いんじゃねえの」
「あ、そうか」
「そうか、って…」
そのまま凭れてじっと目をつぶる。隼人はそれを見届けると右手をついて体を元に戻し画面を見つめた。凭れ掛かってくる体が思いのほか邪魔になり、思ったように上手くボタンがさばけない。段々画面を見続けるのが面倒になってきて、案の定画面にゲームオーバーの文字が浮かぶ。コンテニューはしなかった。そのまま電源を切った。テレビの画面は真っ暗になった。
日が落ちだして暫くになる。オレンジ色に桃色の雲が目に心地よかった空はいつしか遠くにその色を残すだけで、ほとんど濃紺に染まっていた。電気もつけていなかった部屋は暗闇の中に落っこちたが、目をつぶってしまったのであまり関係が無かった。相手は最初に凭れたまま動かなかったが、ふとした瞬間に隼人の指先を握った。逃がすまい、としているのだろうか。
隼人は「別にどこにもいきゃしねえ」、と聞いているのかいないのか分からない相手に独り言のように言った。そうして出来るだけ相手が倒れない程度にこちらも体重をかけた。首を傾け涼の頭に自分の頭をのしかける。涼は何一つ言わない。
そして一度だけ瞼を上げると、またゆっくりと瞼を引き下げた。夕食まで眠ることにした。この家の女主人が帰るまで、互いに釣り合わない圧力を掛け合ったまま、眠ることにした。
●2007年06月18日
夕方って時に不安定な時間なんです私には…。平日は良い時間、休日は寂しい時間。
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