「百舌鳥さんにもひとつあげます」


 車の後部座席に並んで座っていたが、空腹に耐えかねたのか斑鳩悟はポケットから三つ飴玉を取り出した。やや大きめの、駄菓子屋なんかでひとつ10円くらいの、ビンに入って売られているようなそれら。友達がくれたんですけど、と悟はその色鮮やかな袋の内ひとつをこちらに差し出した。百舌鳥はどことなく懐かしく思いながらその手の平から飴玉をさらった。
「できればもっと腹に溜まるもんが欲しかった…」と呟きつつ、ビニールの包みを破り袋同様に鮮やかな黄緑色の中身を口に入れる。それからしばらくしてぱっと思い出したように小さな袋の内側を覗き、やった、とこぶしを作った。


 「なにがやったなんだ?」


 不思議そうにきくと悟はにやりと笑って、ほら、と袋の内側をこちらに向ける。一瞬それがなんなのか分からなかったが、手から袋を受け取り中を覗くとなるほど、小さく薄い字で『あたり』と書かれている。


 「お店に持ってったらもう一個同じのがもらえるんですよ」


と悟はいかにも嬉しそうに言った。百舌鳥は少し呆れたが、殺伐とした世界で生きる悟の幼稚さ、というか「子供」である部分を見つけると、百舌鳥はいくらか救われたような気になるのだった。
 そのうち百舌鳥も手渡された小さな袋を破り中身を口に入れた。安っぽい水色の飴玉はすぐに口の中を甘く満たす。百舌鳥は入れてすぐに奥歯で噛んでしまった。がり、と鈍い音がして、悟が隣でもう噛んじゃったんですかと言った。食べ辛いだろう、と言って悟に空の袋を渡す。悟はほぼ反射的に差し出された空の袋を受け取り手の中でくしゃりと握った。百舌鳥はその手を見つめた。こぶしを作ったその手は骨張っていて大きく、幼さは見られない。しかしその手がまだ自分の手のなかにすっぽりと納まる頃を知る彼は、ごくたまに錯覚することがあった。そしてそんな表情の後に見せる難しい「一人間」とか「大人」とか呼ばれる表情に違和感を覚えることもある。

 退屈そうにきらきらとネオンやらが光りだした窓の外を見つめる悟に、百舌鳥は良かったな、と言った。悟は不思議そうに振り向き首を傾げる。これでもらえる飴玉がふたつになったじゃないかという言葉を聞き、悟は急いで握り込んでいた飴玉の包みの中を覗いた。中にはやはり控えめな小さく薄い字で『あたり』と書かれていた。悟はポケットに仕舞い込んでいた最初のあたりの包みを取出し、二つ並べて微笑んだ。
 百舌鳥はそれを少し寂しそうな目をしながら小さく微笑んで見た。これから飛び込む今はまだ遠くの危険の中で、二人分の小さすぎる幸運が何かの役に立てば良いが、と半分になった飴玉を口の中で転がしながら思った。














●2007年05月11日 
駄目なんだ結局いつまでたっても心配で少し、申し訳なくて。
そう、いろいろに、申し訳ない。
と、いう百舌鳥さん。わたしはあの10円の飴玉の大ファンであります。

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