何がしたい?
どうしたい?
どこに行きたい?
何が欲しい?
鬱陶しい、とまで感じるほどに抽象的な質問攻めをしたあげくに当日の朝方、まだ夜中に眠い目を擦り読んだメールは「行けそうにない」、だった。
優はいくらか呆れながらため息をついて携帯電話を閉じた。どうせそんなこったろうと思ってた、と眠くて虚ろな頭で携帯電話の電源を切りタオルケットを頭から被り丸くなって再び夢の中に落ちた。目覚まし時計が現実の朝に引き上げる7時まで。
目覚めてからというもの遠く離れた友人からのメールやメッセージが絶えない。
言語は様々で、日本語だったり英語だったり中国語だったりドイツ語だったりフランス語だったりした。しかしフランス語の中にはほぼ前日まで大騒ぎしていた人間の名前はない。優は益々呆れ、そしていくつかの寂しさを腹に抱えたままドアを外へ開いた。
外は文句のつけようもなく、清々しくからりと晴れていた。
「ジャンの馬鹿やろー…」
* * *
「それじゃあ、おやすみ」
主役が居なくなるというのにそれに関係なく騒がしい部屋を後にする。山本氏や社員らが用意してくれた時間は楽しかった。色とりどりのリボンのかかった箱や袋を抱えて部屋へと続く廊下をゆく。やはりこころの底から喜べないままではあったけれど。
部屋の照明のスイッチに手を伸ばす。薄暗い廊下の明かりとは違い、いくらか白く眩しく室内のものを照らしだす。今朝出る前となんら変わりない。誰かが侵入した形跡も、ない。
「有り得ねー…」
ため息混じりに手のなかのものをソファーに置く。中には様々な贈り物。恩師や高校の友人からのカード。ソファーに深く腰掛け目を通すだけでも顔が緩む。みんな、元気そうだ。
誕生日だなんて、この歳になってしまえば大騒ぎするようなことでも無いし、数年前まではそうだった。しかし一人の人間の存在はその日を浮き立たせる。
(あんだけ言ってたくせに…相変わらず考えなしだよな)
あいつ、と呟いて振り払うように沢山の箱に手をかけた、その、瞬間。
ぎし、と、ベランダの方からあらぬ音がする。
続いていくつかまた鳴った。軋み方に重量感がある。鳥や猫にしては大きすぎる、明らかに違う。第一にこんな大都会の高層ビルのベランダにどうして猫なんかがいるだろうかと訝しげに──仕事柄、ソファーのクッションの中から拳銃を取出し構え、ベランダににじり寄りカーテンに手をかける。トリガーに指をを掛けたまま勢い良く、それを横に弾くようにめくる…
「…ボ、Bonjour…」
「…何をやってんだ何を」
「…あー、ちょっと準備するから、部屋から入るとこからもう一回してくんねえか?」
「何で!俺が!お前のアホな冗談に付き合わなきゃなんねんだよ!!」
大きなガラス窓を開けその相手に向かって噛み付くように叫ぶ。ベランダの巨大猫──もといジャンは申し訳なさそうに頭を掻いた。優は訳が分からないと目尻を釣り上げる。
「そんなに怒るなよ」
「別に怒ってねえし」
「怒ってるだろ」
なあ、御神苗、と呼び掛けた瞬間に優は身を翻して部屋の中へと帰っていく。締め出されなくて良かった、とジャンは急いでその静かに怒れる背中を追い掛けた。
「靴、」
「あ、悪ィ」
まごついて靴を脱ぐ。優の機嫌は更に悪くなったように思われた。これはいけないとジャンはばつが悪そうに何となく言葉を繋げていく。
「あー…、その、御神苗?」
「…仕事終わったのかよ」
「や、その。…別に仕事だったわけじゃねえ」
「あっそ…」
「でも別に遊んでた訳でもねえ」
「ふうん」
7月5日、寄り道せずに真っすぐ学校から帰ったら、それから絶対に出掛けたりするな。これが数日前にジャンが最初に言った計画のひとかけだった。メールを受け取ってからも優はジャンとの約束を守り真っすぐこのアーカムビルの自室に帰ってきた。それでも夜9時過ぎになるまでジャンは現われなかった…
「別に、お前が何してようと俺には関係ねえし」
「皆色々してくれたし」
優はソファーの上を指差した。するとジャンはゆっくりと背をむけ、ベランダの方へ歩いてゆく。そうして使い込んでくたびれた大きな茶色のトランクを持ち出してきた。
「……何だよそれ」
「開けてみろ」
ジャンは歩み寄ってトランクをこちらに寄越した。優は訝しげにそれを受け取りソファーに浅く腰掛けテーブルの上に置き、ゆっくりと止め具を外して蓋を開いた。そうして言葉を失った。
「ほら、これ」
ジャンは優の座るソファーの背もたれの後ろに周り、広げたところの端にあった手のひらに乗るくらいの小さな箱を取出し、優の手の平の上に落とした。
「…何だよ、これ」
「まあ包み開けよ」
ジャンは目を細めて優が外の包みを開くその指先をじっと見つめる。
「えっ、これ…」
「…前に欲しいって言ってたろ」
「…でもこれ…5年も前に出た…ドイツ限定のやつ…」
「だろ?探すのなかなか苦労したんだぜ。あ、ほらほら、他にもあるぞ」
最初のその包みから現われたのは腕時計だった。そうしてからもジャンは次から次に優の腕のなかに箱や袋を取り出していく。ジャンも手伝って包みを開いてゆくと、それらはすべて過去に少しでもジャンの前で優が興味を持ったり欲しがったりした物ばかりだった。どれだけ細かく覚えていたというのだろうか。見る見るうちに優の膝のうえは箱やリボンや包み紙で一杯になっていった。
「ジャン…これ…」
「お前何が欲しいってきいても何にも要らねえ、って言うからさ。…片っ端から集めてやろうと思ってよ」
「…先週一杯仕事でな。思った以上に集めんのに手こずっちまった」
ばか、と呟くように言ってから、優は酷く複雑な笑みを浮かべて体をよじりソファーの後ろのジャンの首に腕を回した。ジャンは屈んで酷く満足そうに目を細めて、愛しげにその擦り寄る頭を撫でた。
(御神苗、そのうち誕生日だろ?何か欲しいものねえのか)
(…あー…?別にぃ、特に何もねえかも)
(馬鹿、お前プレゼントのねえ誕生日なんて白けてるぜ!)
(そおかあ?)
お前の欲しいもの、みんなみんな集めたかった。お前が喜ぶ顔見たかったから、遅くなって悪かった。ジャンはゆっくりと優の耳元で言った。
「…だから俺、何にも要らねえっていったのに…」
優は更に腕に力を込めた。考えなしだから、絶対遅れてくると思ってたから。俺は別に、お前と一緒に美味い飯が食えれば楽しかったのに。くすくすと笑い合って視線を合わせ、優はゆっくりと目をとじジャンの口唇に自分のそれをそっと押しつけた。ジャンは要領よく舌をまでも入れる。
「…苦労した分は今ので改竄してやるよ」
「あんなんで良いのか?」
「もっと先を望んでも?」
「内容に、よるかな」
「あ、なあジャン」
「あ?」
「分かったけどさ、何でベランダに居たんだよ」
「…あー…、それはな、サンタクロースを…やろうと思ったからだ」
「はあ?」
「屋上から降りたまでは良かったんだけどな、うっかりトランクを落としかけた」
「ば、馬っ鹿だなあお前!」
「…そんな笑うんじゃねえよ」
ジャンはちょっとだけ肩をすくめてばつが悪そうに視線をそらした。優は首から腕を外し、ジャンの両頬を手のひらで覆いもう一度深く口づけた。誕生日ではしゃぐ歳ではなかった。しかし一人の人間が嫌でもその日を浮き立たせた。トランクに想いをつめて、彼は世界で一番のプレゼントを寄越したのだ。
もうなにも要らないよ、お前が居ればそれでいいんだから。
●2007年07月05日
んもーぜったいもんのすごい甘いのにしようっていうか絶対そうなるよこれ私が書くんだもんと思っていたのでこんなもんです(笑
ジャンはなんだってしたいのおみなえの為に。でもジャンはちょっとたまにドジをするのでそれを見越して甘えたかったオミナエ。
………………………orz……………………………(悦
優ちゃんお誕生日おめでとう!ちょーすき大好き結婚して欲しい!ジャンと(笑
<<<