「こっちであってんのか?」
暗い道だった。途方にくれるほど暗い道をひたすら、ひたすら歩き続けている。いつから歩いているだろうか、いつ目的地に着くのであろうか。目的地には着くのであろうか。目的地はどこなのであろうか。
寒さには一向に慣れない。酷く寒い道で、ただ白くまっすぐに続いている。壁はない。分からない。闇の中に線が引いてある。ふとした瞬間に恐ろしくなって足が竦む。ここは寒い。寒すぎる。そしてすさまじい疲労感だ、一歩踏み出すごとに増してゆく。
「…御神苗…」
「どうしてお前がこんなところに居る?」
「お前のいく方向はこっちじゃねえよ、ジャン」
「なに?」
次の瞬間。
すとん、と、先ほどまで足をついていたところがなくなり、自分の体は闇の中に放り出される。落ちているのか上昇しているのか止まっているのか分からない。突き飛ばしたのだ。今すぐにでも闇に溶けて分からなくなってしまいそうなカラスの羽のようなしっとりと黒い髪にまるで黒真珠のような瞳で御神苗優という人間が、俺の体を強い力で突き飛ばしたのだ。そして投げ出される。どうすれば良いか分からない。右と左が分からない。上下も分からない。何が出来るのかわからない、どうなるのか分からない。ただ寒い。冷たい。どこへ行けば良い、俺はどこを歩けば良い。
「…ン、ジャン!!」
「……!」
「…ばかやろぉ…おまえ、心配かけさせやがんじゃ…ねえよ…」
驚いて、というかほぼ反射に近い形で体を起こし覗き込んでいた相手の体に飛びつくように抱きしめる。相手は一瞬動きを止め、そしてまだ文句を言いながらその背に腕を回す。瞼を肩に擦りつける。指で梳く、愛しい、柔らかい漆黒の髪。
ああ、そうか。俺は、また。
体中の関節は酷く軋み痛む。消毒液やらのにおいがひどく鼻につくここは病室だ。勘弁して欲しい。軟弱な体は要らない。駄目にならずにすんだのだ。意識なく戦場を後にすることは久しい。ほとんど何も覚えちゃ居ない。しかしそうか。
俺に引導を渡すのはお前か。
夢だったのだろうか。そうでなかったのだろうか。どちらにしても寒かった。あんな寒いところはない。一体どこへ向かって歩いていたのだろうか。地獄だったのだろうか。俺を救おうとした?いいや、俺に限って。
許さない、と言ったのかもしれない。天国へ行こうとするのをさえぎったのかもしれない。お前がそんなところでのうのうとしていて良いと思っているのか、と。罪を償えといったのかもしれない。天国、これほど俺に似合わないものもさほどあるまい。
あるいはどちらでもない、こちらに引き上げてくれたのか。どちらにしても、裁くのはお前なのか。突き飛ばしたのだ。どちらか分からないよ。俺にとっちゃ大鎌の死神も馬鹿げた白い羽の神の使いも何ら変わりはない。ああ、でも、ほら、会いたかった…
(あったけえな)
瞼を引きおろす。頭の中が満たされる。記憶を埋め尽くす顔は自分を幸福にする。そうだ俺が死ぬときは、お前を護って死ぬのだ。俺はお前が居るから泣かない。お前も俺が居るんだから泣くな。
場所はどこだって構わない。瓦礫の中でもいい、病室でも自分の部屋でもお前の部屋でもいい。
ただたったひとりの人間に看取られて、俺は逝きたい。
●2007年07月19日
夢落ちみたいの好きなんかなーわたし…(笑
最後のくだりはずーっと前から溜めてた。やっと書けてよかったです。
【Another Heaven=もうひとつの天国】どっかで聞いた事あるけど、なんか、すごい、重いなあと思うんですね。
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