夢見サイアク、と優はシーツにがじがじと噛付きながら言う。
 ジャンはその隣からシーツを摘んで優の口から引き剥がし、その口唇に自信のそれを重ねるす。離れてすぐ、優は変に目を細めながら時計を見ている。時、既に正午。寝すぎだ。そりゃあ頭痛もするし悪夢も見ようか。

「あー…久しぶりにひでえ夢みちまった…」
「そりゃご苦労さん」
「…お前が素直に寝かせてくんねえからだぜ」
「なあにを、」

 楽しんだくせに、と喉で笑って、優はその頭に軽く拳を落とす。寝転んだまま。頭痛を感じるから起き上がりたくない。きっと立ちくらみがするに決まってる。ぬるくて気持ちがいいベッドの上でジャンの足を軽く蹴る。しゅる、とシーツが擦れる音。

「どんな夢みた?」
「ジャーン…寝煙草止せって、」
「んだよ、融通利かせろよ」
「うっせ、火消せ」
「じゃーチューして」
「…いいから消せよ」

 チューとか、お前、バカだろ、と。
 優は心底呆れた顔でサイドテーブルの灰皿にまだ長いタバコを押し付けるジャンの頬にキスをする。首を持ち上げると頭痛の輪郭がよりはっきりと浮き上がる。具合が悪い。折角の休日は頭痛に始まるんだ。嫌だな、でも薬は飲みたくないしな。

「どんな夢だった?」
「あー…俺が死ぬ夢」
「…ご愁傷様だな」
「お前もな」
「あ?」
「…事故って死んだ俺をお前が後追い自殺する夢だ」
「わあお…そりゃ濃密な悪夢」

 勝手に殺すなよ。
 ジャンはそれでも機嫌よさそうに優の頭をくしゃくしゃと掻き混ぜる。優はそれを少しわずらわしそうにしながらも甘んじて受け入れる。じゃれる猫に似ている。穏やかだ。

「お前、このビルの屋上から飛び降りるんだぜ?バカだろ?」
「バカとか言うな。しかもてめえの頭ン中の話だろ」
「んもー…最ッ低だそんなん…」

 死にたくねえよー、と優は寝返りを打ち両手で顔を覆いながら、切羽詰ったような声で言った。同感、とジャンはサイドテーブルの煙草に手を伸ばす。その腕を優が伸ばした腕で静止する。ジャンは面倒くさそうに腕を引っ込めて、代わりに優の口唇に自身のそれを重ねる。俺は煙草の代わりか、と優は呟くようにして言う。

「死ぬの、やだよな」
「嫌だなあ…俺はビルから落ちただけじゃ死にゃしねえけどよ」
「…俺、夢で死んでるのに泣いてるんだぜ、」
「ジャンの墓の前で泣いてやんの。あー馬鹿馬鹿しいったら…」
「…お前…そこは別に馬鹿馬鹿しくなんかねえだろ…」
「馬鹿馬鹿しいだろ。だって、そんな…俺、死んでんのにまだ泣いて…」
「泣けよ。俺は泣かねえけど」
「は?そこは泣いとけよ…」
「はは、どーせすぐ会えるんだからよ…」
「どーいう意味?」
「そーいう意味」

 優は寝転んだまま怪訝そうな表情を浮かべた。ジャンは楽しそうに笑って再び唇を奪う。ちゅ、と音がする。シーツが擦れる音に混ざって行方不明になる。

「お前…ジャン、お前俺が死んでも絶対後追いなんかすんなよ」
「嫌だよ。んだよ、俺の命だぜ勝手にさせろよ」
「はー…もー…マジ勘弁」
「そんな嫌がるなよ」
「嫌がってねえよ」
「そうかよ…」
「そうだよ」

「…まあ実際、」

 ジャンは目にも留まらぬ速さでサイドテーブルに手を伸ばして煙草二本とオイルライターを手に取り、一本を優の口に、もう一本を自身の口に咥えそれぞれに火をつけた。お前本気出すなよと優は観念する。

「…んで、実際、なんだよ」
「まあ、あれだ、」

 お前の居ない世の中の方が、よっぽどあの世みてえなもんじゃねえの?

 ジャンは可笑しそうに、それでも嬉しそうに笑って煙を吐き出した。優はその煙の先を見つめ、滅多なこと言うなよと呆れ顔で言った。言ってから笑った。ジャンが丸くドーナツ形に吐き出した煙を、煙で吹き飛ばした。
 馬鹿な夢に、馬鹿な男がふたりして。





















●2008年4月6日 
 日記で上げたやつ。
 朝チュンとかすきです。んでごろごろしているのがすきです。あときしょいジャン…(笑


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