「なんでわかんねんだよ!!」

「ああ、わからねえな。さっぱりだ」

「んだよその言い方、すっげえ腹立つ!!」

「ああそうかい、そりゃあ良かった!!」

「ジャンの馬鹿野郎!もう顔も見たくねえ!!」

「そりゃあこっちの台詞だぜ!!」

「出てけ!!」

「言われなくても!!こっちから願い下げだぜこんなとこ!!」

「もう二度と来ねえよバーカ」


 がしゃん、とあまりに勢いよくドアを閉めたので室内にはその音の余韻がぐわんと響いた。握り締めた右手も左手も怒りのあまり震えている。心臓が激しく脈打った。こんなに壮絶な口喧嘩をしたのは久しぶりだ。どさりと乱暴にソファに腰掛けた。悔しくて悔しくて見る見るうちに視界がぼやけ、ぽったりと床にしずくが落ちた。

 落ち着いてからひとりになった部屋を見渡す。先ほどまで相手が居た形跡があちこちに残っている。カップに残ったカフェオレ、灰皿のメンソールの吸殻、パジャマ代わりに着ていたTシャツ。仕方なくテーブルに残ったそれらを片付け始める。苛立ちよりも後悔が大きかった。久しぶりだった。1ヵ月半ぶりくらいの休暇のシンクロだった。
 灰皿に残った吸殻をゴミ箱に入れる頃、携帯電話の着信音がなった。一瞬通話ボタンに伸ばしかけた指を押しとどめた。とても気まずく、切ってしまおうとしたのだ。しかしそんなことをすれば後々もっと厄介なことになる。だけれど、電話でまで喧嘩をするのは、ごめんだった。


「……」

『もしもし』

『…何か言えよ』

「……」


 いきさつを考えていた。自分が悪かったのだろうか。相手が悪かったのだろうか。いいや、きっと両方だ。互いに意地を張った。その結果だろう。


(しょうもないことだったのにな…)


『前はこんなこともなかったのにな』

 ふいにジャンが携帯電話の向こうで呆けたような口調で言った。

「…ううん、それは違ーよ。逆。前はもっと喧嘩した」

『嘘だ、こんな激しくなかったぜ』

「うん、そうだけど。もっとしょっちゅう喧嘩しただろ」

『…こんなに意地の張り合いしなかった』

「ジャンが、折れる」

『そうだな』

「……」

『……』


 沈黙。居心地が悪い。まだ意地を張っている。そんな気がした。自分も、受話器の向こうの相手もそうだ。
 部屋に来るようになってすぐはもっと難しかった。互いに裏の裏をかいたことばかりをしてすれ違った。男と男、分かり合えるはずが、難しかった。


「ジャン、」

『ん?』

「帰って来いよ」

『…じゃお言葉に甘えて』


 がしゃ、とドアが開く。あまりに早々の、「帰宅」だった。
 ジャンが先に折れるなんてのは多分口先だけだった。いつだってドアを開け出迎えるのは俺だった。それをジャンも分かっていた。だから決してそれ以上は何も言わない。リセットだ。何事も無かったかのようにキスを落とす。それでよかった。会う回数が増えて、一緒に寝る時間が増えて、共有する時間が増えれば増えるほど喧嘩は複雑化した。半面二人の間は単純化していった。一緒に居たいと思うのなら、居ればいい、そんな風になっていった。


「ただいま」

「ジャン、お前もしかしてずっとドアの外に居たのか?」

「…まあ、な」

「…あほ」


 勢いよく部屋を飛び出しその後ひたすら廊下で待ち続けしまいには電話をかけた何とも似合わない姿を想像し思わず吹き出す。笑っていると、そっと背に腕を回されて引き寄せられる。胸に右耳がぴったりとくっつく。
 いつだって、濃厚なキスでリセットだった。喧嘩はおしまい、おしまい。ただ、喧嘩をするたびにすれ違うたびにますます互いの目を見るようになっていった。すべてを分かろうとした結果だった。
 すべて分かりきれたらどんなに良いだろうと考えた。一緒に居たいと思うから、居る、それだけのことになった。もっともっと単純になっていった。そうしてどんどん居心地がよくなっていった。愛していた。何を?互いの、すべてを。
















●2007年04月03日 
姿勢の違い。でも、ただ、欲しいだけ。


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