氷の女王




 もしお前が人柱となればお前の大切な獣人を帰してやりましょう。
 しかしお前が人柱となっている間はこの世に生きとし生けるものの全てはお前のことを何もかも忘れてしまうでしょう。
 矛盾は我の力で消えましょう。
 それでも起こる小さな矛盾はきっと上手く辻褄を合わせてしまうでしょう。
 お前は居なくなり、生まれてさえ来なかったことになります。
 お前の大切な獣人でさえお前のことを忘れてしまうでしょう。
 それでも良いのですか。

高慢で残忍な氷の女王は大体そんなようなことを言った。青年は白い息を吐きながら頷いた。


「構わない。その代わりにジャンは離せ」


 女王は触れようとするだけで凍てついてしまうであろう氷の肌で頷いた。そこに浮かぶ微笑みは酷く冷たく恐ろしいものだった。しかし青年はそんなことを微塵も見せずに目の前の大きな氷に歩み寄った。その周りでは時々氷や大気達がひしめく透き通った音が聞こえた。美しく寂しい音だった。それはまるで青年に課せられる運命を嘆いているようだった。すると青年の周りに白く氷の粒が集まりだした。入り込んだ冷気と氷の粒でひゅ、と喉が鳴った。それが体にまとわり付き、どんどんと覆っていった。その間も青年はじっと挑むような目で氷の女王を見据えていた。


「賭けをしねえか?」


口元だけに笑みを浮かべ、青年は強く押し出すように言った。






20070626 

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