Queen Of Ice




 ジャンは酷く急いだ様子で荷物を肩から下げ空港から発っていった。ただならぬ彼の様子を気に掛ける人間は多かったが、それ以上干渉する人間はいなかった。皆の中からすっぽりとひとりの人間のことが抜け落ちて6日が経とうとしている頃だった。
 ジャンは焦っていた。一刻も早く行かねばと凍てつく氷の世界を目指した。そわそわと落ち着かず酷く顔色も優れない。その理由は分からない。ジャン自身にも分からない。不思議と、まるで何かに取り憑かれたかのように北をめざす。凍てつく氷の地。そこに何があるのか。何がそこまで彼の体を突き動かすのかも分からない。
 それでもジャンはそこにある何かがここしばらくの暮らしの中で常に感じる広大で底のない喪失感を埋める何かなのではないかと思っているのだ。それが何かも分からず何の根拠もないというのに!それでもジャンの指先は確かに何かを探している。確かめねばならない、と、ジャンは難しい顔のまま旅客機の窓から外を見ていた。






20070627 >NEXT