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「…ほんとに良かったのか」
「なにがだよ」
「その…俺なんか連れて…こんな」
「ははっ、ヘンな奴が絡んでこねえからいいだろ?」
ジャンは薄暗い夜行列車の席で、すっぽりと頭から、まるで夏の雷に怯えるリスの子のように、青いタータンチェックのストールを被っている。優がそうさせたのだ。
事情知らずのおしゃべりたちの目は、寂しいオオカミを疲れさせる。
「…なあ、ジャン」
「なんだ?」
「俺、レジが打てるんだ」
「そうか」
「未来はよくなるよ、きっとな」
「そうだろうよ」
ジャンはいくつか優の頭を撫でた。
もう薄暗い部屋で、パンからカビをとって食べるのなんて、嫌でしょう?
たどり着く先はどこか知れない。家はどこだろうか。屋根は何色だろうか、キッチンの使い勝手は? 日当たりはどうだろうか、窓はどんな大きさ? 隣人がうるさくなきゃいい、こちらがうるさくても気にしないひとならいい。それからそう、近くに噴水の広場があればいい、きっと市が開かれる。
単調なレールの上の音が眠気を誘う。すぐ隣で、すう、と静かな寝息。
赤色のマフラーが首からするりと胸に落ちた。ジャンはそれをそっと首に戻してやった。そして自分も目をつぶった。列車の屋根の上には、冷たい空気が満ちていて、その更に上を、いくつもの星が囁いた。
目が覚める頃にはきっと、ふたりの知らぬ世界があるのだ。
◆20070626〜20071231 日記で書いてたのを手直し+追加しました。
レジが打てる、未来はよくなる、の二つは、トレイシー/チャップマンのカバーで矢井田/瞳が日本語で歌ったうちにあるんですね。
わたし、それが、とても好きで、どうしても、入れてみたかった。ここまでお付き合いどうもでした。どうもかけつけなので、後から手直しするつもりではあります。
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