★  ★









「だから、もう、ここには来ない方がいいって」

「…そう」


 ジャンはバスケットの中を覗いて申し訳なさそうにしてから、顔を上げありがとうと嬉しそうに笑った。良ければ一緒にどうだと誘われたが、それ以上その場にいると何かひどいこと言ってしまいそうなので、なんとか出されたカップの中身を飲み干すと家を出た。
 ジャンは寂しそうに微笑み「気をつけて帰れ」と、自身よりも一回りほど華奢な背中を見送った。

 どうしよう、どうすればいい?
 このままじゃ、ジャンは俺の知らないどっかに行っちまう

 うるさい街のやつらのせいで、と弱弱しく下を向いたまま言う。テーブルのスープを見つめたまま動かない優を悲しそうな顔で見つめていた姉は、ふと打って変わって強い声で言った。


「優ちゃんはどうしたいの?」

「俺は…」

「ジャン君にここに居て欲しいの?」

「ジャン君がここに居て、他の人間に殺されそうな目に遭わされても良いの?」

「違う…俺はそんなこと望んじゃいない」


 ただ一緒にいるのが楽しいのだ、と。
 いろいろなことを話すこと、食事をすること、トランプをすること、昼寝をすること。歳の離れた姉には決して許してもらえそうも無い、乱暴な冗談や思いつき。ジャンは優が欲しいものをたくさん持っている。
 がっくりとうなだれるとひじがスプーンを押しやり、食器とぶつかってチーン、と音を立てた。するとそれを秋葉は先ほどとは違った、何故かとても満足そうな笑顔で見ていた。


「それなら一緒に居ればいいじゃないの」

「どういう意味?」

「一緒に居たいってジャン君に言ったの?」


 いいや、と首を振る。
 じゃあそれを言わなくちゃ、と秋葉はチェックのロングスカートと白いエプロンを揺らして笑った。だけれど、私はあなたの姉だから、未成年のあなたを直接非行に導くわけには行かないわ。


   いい? ヒントをあげましょう。一言も漏らさずよくお聴きなさい!


 秋葉は不思議そうにする優の目の前にぴん、と一本人差し指を立て、それからまるで何か乱暴な秘密の話をするときのように、そっとひとつずつ優に話して聴かせた。

 曰く、欲しがる素振りを見せているだけは、お馬鹿さんの損しいだ、と。












  /